引越し後に請求されるハウスクリーニング代は入居者負担?
賃貸住宅を退去した後は、敷金が返還されることが多いですが、敷金から差し引かれている内訳に納得がいかずトラブルになるケースが後を絶たないようです。
敷金から差し引かれる内訳は、主に「日割り家賃・共益費」「修理費」などが挙げられますが、契約内容によっては、「ハウスクリーニング代」が請求されることもあります。
契約内容に、室内清掃費などのハウスクリーニング特約が定められている場合は、原則としてその内容に従わなくてはいけませんが、入居者にとって不条理な特約の場合は、認められないこともあります。
このページでは、ハウスクリーニング代を負担する際に知っておくべきことをまとめてみました。
ハウスクリーニング代は誰が負担すべきなのか
冒頭でも少し触れましたが、契約内容にハウスクリーニング特約が定められている場合は、原則としてその内容に従わなくてはいけません。
特約事項とは、予め定められている契約内容とは異なる条項のことを言います。貸主は、契約自由の原則によって、この特約事項を定めることができるとされていますが、入居者に不利な特約内容の場合は、その特約が認められないこともあります。
Q 賃貸借契約(契約更新を含む)では、借主に不利な特約でもすべて有効なのでしょうか。
A 賃借人に不利な特約は、賃借人がその内容を理解し、契約内容とすることに合意していなければ有効とはいえないと解されています。
建物の賃貸借契約は、借地借家法の適用があるのが原則であり、借地借家法が定める事項については、借地借家法の規定と異なる合意を規定しても、借主に不利な特約として無効となるものもあります。
また、消費者契約法は信義誠実の原則に反し、消費者の利益を一方的に害するものは無効と規定しています。しかし、このような強行規定に反しない限り、契約自由の原則により、合意された契約内容は有効となり、賃借人に不利な特約がすべて無効になるわけでもありません。
もっとも、賃借人に不利な特約を契約内容とする場合には、賃借人がその内容を理解し、それを契約内容とすることに合意しているといえるのでなければ成立しているとは言えません。また成立しても、賃借人にとって不利な特約である場合にはそれが有効であるとは限りません。
原状回復に関する賃借人に不利な内容の特約は、近年の(最高裁の)判例も踏まえ、次のような用件を満たしておく必要があると解されます。
[1] 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
[2] 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
[3] 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
国土交通省 : 原状回復をめぐるトラブルとガイドラインのQ&A
国土交通省が公開している原状回復に関するガイドラインのQ&Aによると、入居者に不利な特約であっても、特約事項が妥当な請求額・請求内容であればその特約が認められるが、入居者にとって不当な請求額・請求内容であれば、特約事項が成立していたとしても、その特約が認められるとは限らないとしています。
入居者にとって不当な請求内容とは、例えば、入居者が通常負担しなくてもよい原状回復にかかる請求費用を入居者に負担させるなどの内容です。
入居者が負担しなくてもよい原状回復にかかる費用は、「経年劣化」や「通常使用による汚れや損耗」などです。
具体例は、国土交通省が定める原状回復をめぐるトラブルとガイドラインにも示されていますが、「入居者の負担となる項目・貸主(オーナー)の負担となる項目」などとして、通常、契約書に記載されてあるはずです。
入居者の負担となる項目に当てはまらない不当な費用は、支払わなくてもよい場合もあります。
ハウスクリーニングの相場は、2LDKで4万円前後(作業内容で変動有り)ですので、程度の超えた修繕費用やクリーニング費用は、内訳明細を要求して不服があれば貸主に説明を求めましょう。
自分で掃除すればハウスクリーニング代はかからない?
契約内容に、ハウスクリーニング特約が定められている場合は、自分でしっかりキレイに掃除をしたとしても、専門業者が行うハウスクリーニング代は請求されます。
自分では掃除ができないレンジフード内部の分解洗浄やフローリングのワックスがけなど、通常の掃除の範囲を超えての掃除になるからです。
全く掃除をしないのもクリーニング代とは別で費用がかかることが多いので、できる範囲の掃除をして、ゴミを残さないようにしましょう。※「ハウスクリーニング代とは別で請求される費用」として以下に参照
ハウスクリーニング特約についての判例
ハウスクリーニング特約については、具体的に認められたものと認められなかたったものの判例があります。
Q 賃貸借契約にクリーニング特約が付いていたために、契約が終了して退去する際に一定の金額を敷金から差し引かれました。このような特約は有効ですか。
A クリーニング特約については①賃借人が負担すべき内容・範囲が示されているか、②本来賃借人とならない通常損耗分についても負担させるという趣旨及び負担することになる通常損耗の具体的範囲が明記されているか或いは口頭で説明されているか、③費用として妥当か等の点から有効・無効が判断されます。
クリーニングに関する特約についてもいろいろなケースがあり、修繕・交換等と含めてクリーニングに関する費用負担を義務付けるケースもあれば、クリーニングの費用に限定して借主負担であることを定めているケースがあります。
後者についても具体的な金額を記載しているものもあれば、そうでないものもあります。
クリーニング特約の有効性を認めたものとしては、・・・(中略)・・・専門業者による清掃費用として相当な範囲のものであることを理由に消費者契約法10条にも違反しないと判断しました。
他方、(畳の表替え等や)「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」旨の特約は、一般的な原状回復義務について定めたものであり、通常損耗等についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものとは言えないと判断したもの(東京地方裁判所判決平成21年1月16日)もあり、クリーニング特約が有効とされない場合もあることに留意が必要です。
国土交通省 : 賃貸住宅の入居・退去に係る留意点
ハウスクリーニング特約と一括りにしてみても、「修理費などど一緒にクリーニング費用を負担する場合」や、「クリーニングの費用に限定して入居者に負担する旨が記載されている場合」もあり、また、「クリーニングの費用○○円は入居者が負担するなど、金額が具体化して示されている場合」もあります。
クリーニング特約が認められた判例は、契約書にクリーニング代を入居者が負担する旨の記載があったことや、クリーニング代も家賃の半額以下であることから相応な範囲と判断されたものでした。
クリーニング特約が認められないとされた判例では、特約内容に問題があったようです。
経年劣化や通常使用による汚れや損傷は、入居者が負担する項目ではないのですが、特約内容に、畳の表替えなど通常使用や経年劣化による汚れや損傷も入居者負担とすることの記載があったとしています。契約内容に合意し、特約が成立されていたとしても、その特約内容が不条理なものであったために認められない、とした裁判結果ですね。
不条理な契約を掲げる悪徳不動産業者はあまりないとは思いますが、少しでもおかしいな、と思うことがあれば異議を述べることをしても良いと思います。
ハウスクリーニング代とは別で請求される費用
- 原状回復にかかる入所者が負担する費用
- 通常の掃除をしていない場合の清掃費用
- 引越しの際に出たゴミを処分する費用
- 入居者が設置した家具・家電を処分する費用
ハウスクリーニング代を負担する際に、その費用が妥当なものかどうかの判断は難しいものがあります。
ハウスクリーニング代だけで見ても、部屋の間取りや面積、清掃内容などによって料金は異なりますし、特約内容によっては、原状回復にかかる修繕費などど一緒に敷金から差し引きされていることもあります。また、入居者の確認不足で追加で費用が請求されることもあります。
そこで、ハウスクリーニング代が妥当かどうかの判断をするにあたり、ハウスクリーニング代とは別で請求される費用はどのようなものがあるのかをまとめてみました。
原状回復にかかる入所者が負担する費用
原状回復にかかる入居者が負担する費用は、例えば、タバコ等のヤニ・臭いでクロス等が変色した場合のクロス替えなどです。
わざとではない過失(飲み物をこぼしたことによるカーペットのシミなど)も入居者負担になりますが、経年変化を考慮した上で判断するのが一般的です。
年月が経つことで生じる色あせや備え付け設備の故障などは、入居者が負担するものではないのが原則です。
通常の掃除をしていない場合の清掃費用
通常の清掃をしていない場合の清掃費用は、クリーニング代とは別で費用がかかることが多いです。
引越し後のハウスクリーニング代をどうせ負担するのなら、退去時の掃除はしなくても良いのでは?と思いそうですが、通常の清掃が行われていない場合は、追加費用が請求されることもあることを覚えておきましょう。
物件によっては、物を置いていくことさえしなければ追加費用がかからないこともありますが、一般的には、退去時にあまりにも汚れている場合は、善管注意義務違反などによって、通常請求される費用とは別で費用が請求されます。
退去時の掃除に関しては、線引きが難しいのが現状なので、直接不動産屋や大家さんに、掃除範囲や掃除方法などを聞いておくと良いと思います。
入居者が置いていったものを処分する費用
引越しの際にゴミが残ったままであったり、入居者が設置した家具・家電が設置されたままでいると、処分にかかる費用が請求されることがあります。
備え付け家具・家電については、取り外したものは元に戻して、自分で取り付けたものに関しては持ち帰るのが原則です。